「女神の笑顔」第4回鋸山トレイルランレース

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平成25年12月21日(土)
第4回鋸山トレイルランレースのお話

■プロローグ

10月2日(水)
 社内報を読んでいたら、ある若手社員がトレイルランをしていることを知った。山の中を走ることは前々から興味があったので「トレイルランをしたい、教えてください」というメールをした。彼からこのレースのことを聞き、すぐに申し込んだ。トレイルランに初挑戦することになった。

12月20日(金)
前夜、おそくまでワインを飲んでいた。3時間しか寝てないし、2週間くらい練習ができなかった。友達に「役にたってるか考えていた・・・」と伝えたら、「そんなの全然わからなかった、だいじょうぶ、感謝している」と言われ、元気がでてきた。友達はいつも助けてくれる。


12月21日(土)
レース当日の朝

AM5:30
その日の朝。スタート地点である鋸南町保田小学校までドライブ。スッキリとした気持ちだった。練習してるとか、してないとか関係なく、燃えてみたい気持ちになっていた。前日の雨が嘘のような快晴。冷たい空気を貫いて、太陽の光が体に刺さる。さわやかな朝。やる気十分(^^)

AM9:00
スタート前にコース説明があった。「初参加の人は普通のマラソンと思わないでください、サバイバルレースです。コースを間違えると捜索に一晩かかることもあります」とおどされた。まわりのランナーを見ると、普段のマラソン大会と違い、長袖ロングパンツ、水筒、GPS付き時計、リュックとみんな装備がきちんとしていた。僕は長袖を着込んだだけ。ちょっとだけ不安。僕は「たかが28km」と、トレイルランをなめていた。


■サバイバルレース、スタート

AM9:48
予定時間より18分遅れのスタート。こういうゆるやかさははじめて(^^;
1分、1秒を争うのとはちょっと違うレースのようだ。

最初の3キロ、いきなり舗装のある登り坂。なんというコースだ!
そういえばこの数日前、二女が突然「人生山あり谷ありです」と俺に言ってきた。面白い娘である。とにかく・・・登れば、いつか下りもあるってことだな。

舗装された登り坂が終わると、車力道という房総石の運搬道に入っていく。左右が険しい崖になっていて道も細い、雨で地面と靴が食いつかない、滑る。崖に落ちたら大怪我間違いなし。みんな慎重に走るから渋滞気味。

木々の間から差し込む太陽の光と青空が気持ちイイ。
走ることより転んで怪我しないことが大事。捻挫したらアウトだ。

普通に登山道をハイキングしている人もいて、挨拶をしながら走る。僕がちょっとつまずくと、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる人がいた。距離がわからないとつぶやくと、GPS付き時計で距離を教えてくれる人もいた。

みんなやさしい。

しかし、のちのち考えるここはまだ序の口だった。


■心の声

沢のわき道を走っていく。ドロドロの道。日陰はひんやりしていていいのだが、靴の溝に泥が入り、ズルズルすべる。あまり細かいことは気にせず、ガシガシと泥を踏みしめて走る。
しかし、体力の消耗が激しい。靴はトレイルラン専用のものにするべきだ、と後悔した。

AM12:00
最初のエイドステーションをすぎ、13キロ地点を走っていた。コース表示が「上」を向いている。崖を登るのか。山の木々を掴みながら登っていく。走るというより、こどもの時にやった探検、冒険のにおい。むしろワクワクする。

険しい山を登っていく。集団の中にいるのに、孤独について考えていた。両親のこと。両親に「好き」といわれたことがない。こどもの時から、僕は両親にいつも「冷たい」といわれてきた。僕の中ではいつも「冷静に判断しているだけ」という想いで言っているだけだった。この歳になっても両親から認められている感じがしない。「それでいいんだよ」という言葉は聞いたことがない。だから、俺、誰かに認められたくて生きてるのかな。

でも、人生のところどころで、誰かが「今のままでいいんだよ」といってくれた。大学2年の時に先輩に言われた言葉、20年以上前に言われた言葉を今も思い出す。とても嬉しかったのかな。今は孤独感、空虚感を埋めたくて、全力で「生きてる感じ」をつかもうとしているのだろうか。

結婚する前に義理の父親が僕のことを「好き」と言ってくれたのを思い出した。両親には言われたことないのにね・・・。彼はその直後、結婚式の前に心臓発作で亡くなった。

木々を抜けていく。

普段やっているランニング、ボルタリング、スカッシュなどで覚えた知識、つくった体の筋肉がすべて役に立つように感じた。振り子のように動く運動であったり、危機管理であったり、命綱や木から手を離さないことだったり・・・。

山の中で、野生にもどる感覚、体が喜ぶ感覚があった。
これこれ、これが俺がやりたかったことだ!
たのしいーー!

晴れやかな場所にでた。みんな疲れ始めている。
僕の呼吸は全く乱れていない。体力は使ったが心臓は使ってない。勝負にでることにした。

ドロドロ道では地面に力が伝わらないけれど、落ち葉のあるところや、路面が乾いている場所ではスピードを出す。すこしずつランナーを抜いていく。こういうサバイバルなレースは性(しょう)に合っているようだった。

それにしても、なんという不整地な道。泥だけではなく、倒れた木や、木の根、岩など、すべてが障害物だ。
「なんだこのコース、まいったなー」と笑いながらいうと、近くの青年が笑ってくれた。二人で話をしながら走った。聞くと24歳。高校を卒業してバソコンの部品をつくる会社に入り6年目。先輩に14キロレースではなく、28キロレースを申し込まれてしまったと。仕事と自宅の往復、彼女もいなく、毎日つまらないと。
「つまらないのは心の声だ」と言ったら、「そうだったのですね、ありがとうございます」と彼は笑った。
「世の中には笑ってるやつはいる、いろんな人に会ってみたらどうかな」と僕は言った。しばらく走ると「先にいってください」と言われたので、青年に別れを告げて走り抜けた。


■カミツケ!

二つ目のエイドステーション。

「なんなんだ、この道はー、つかれたなー\(^^)/」と笑ったら、きれいな女性が「そうですね~(^^)」と微笑んでくれた。「そうだよね~、おおっ、なんか元気でてきたー(^^)」と笑った。男は単純だ。

彼女は先にエイドステーションを出発した。僕は給水所のコーラをゆっくり味わった。

彼女はずっと先を走っていたが、僕のスピードは速く、あっという間に追い抜いていく。ちょっと残念だが「おつかれ~!」と言ったら、彼女も「おつかれ~!」と返してくれた。「よ~し、元気でたー!(^^)」と笑って走り抜けた。

そこから、登り道、しかも泥の道が続いた。こんな過酷なレースに、先程のような美しい女性などほとんど参加しているわけもなく、男性ランナーを次々と追い抜いていく。その都度「がんばりましょう」「ファイト」と声をかけながら抜いていく。

登り道で無理したら、苦しくなってきた。
途中から僕の心の声が「くそったれ~」に変わっていく。
さらに「ばかやろ~」にかわる。時として怒りも力にになる。

カミツケ!ケモノのように、前のランナーにかみつけ、くらいつけ!
登り坂でもスピードを落とさず、抜いていく。楽しい。

後ろのランナーを振り切って走っていたら、山の中で一人になった。
前にも後ろも誰もランナーがいなくなった。コースがあっているかどうかも怪しくなってきた。
一人は不安。ペースを落とせば、後ろには仲間がたくさん。前には誰かいるのだろうか?

わからなかったら、走る。前に向かって走ることにした。さらにスピードをあげた。

誰とも走らない・・・一人・・・それは気持ちのよいことかもしれない。

枯れ葉の音だけが耳に伝わる。山の中で耳に風を感じる。走っているのがわかる。
山の中で風の音がする。色や音が心を癒してくれている。音も大事なんだな・・・

人影が見えた。前方に集団を発見した。
よかった・・・

さあ、行くぞ!


■生きている感覚

高塚という集落を抜ける。

洞窟、暗闇、何も見えない。
激しく息をして、前のランナーに「どいて!」とアピール。

少しでも路面がいいところはあとのことを考えずに全力で走った。
幸い心臓は強い。

給水所がないので沢の水を口に含み、唇をしめらせる。
生きてる感じがして、楽しくなってきた。

木々の間を抜け、沢を走り抜け、落ち葉を噛み締めながら走る。激しい登り坂をすぎると見晴らしのよい高台に出た。「石切場」と呼ばれる場所。普段は立ち入り禁止区域。この日だけは町が許可を出し、特別に走ることができた。断崖絶壁、千葉県にこんな幻想的な場所があるのだと感動。

足の裏に違和感を覚えた。血豆が痛んだ。靴底に穴が空いていた。見るとボルトが足裏から刺さっていたが、抜けない。ソールの厚さで足裏にわずかに刺さらないくらい、ぎりぎり大丈夫。痛みがあるのは生きているから、大丈夫。


■女神の笑顔

レースは最終局面。残り3キロ。舗装された下り坂になった。
しかし、無理をしすぎたのか・・・気力が落ちたのか・・・
下り坂なのに力が入らない。

力こい!!
なんか力こい!

太陽の力こい!
木々の緑の力こい!
水の力こい!
くそっ、こないか!

心臓うごけー!
心臓回れ!!

最後の力を振り絞る。気力を戻すと、体の力が少しずつ戻ってくる。
よし、いくぞ!

そうこう走っていたら、高速で女性ランナーが俺を追い抜いていこうとする。
なんだこの女、なんでこんな力残ってる人いるの?と思った。

「はやいな!」と声をかけたら「私14キロなんです(^^)」と。
「よし、ゴールまでペースを落とさないでいこう!」と言った。
そこから、下り坂というのもあったが、二人でガンガン抜いていった。

話をすると二人ともこの二週間練習をしてなくて、体調不十分。理由を聴くと彼女は「ボロアパートからボロアパートに引っ越すんです」とおどけながら笑った。日々スポーツジムに通っているという。それ以上突っ込まなかった。他人の人生にあんまり関わるものじゃない。わずかな会話の中で「ボロアパート」という言葉が妙にひっかかった。

それでも、二人でかなりのスピードで走った。残り1キロ。僕はつらくて、先にいってほしいという気持ちをおさえていた。そうしたら彼女から「先に行ってください」と言われた。「俺も同じ気持ちだ、いくぞ、ファイトっていうんだ、力もどる!」と言った。

「ファイトー!!!」
「ファイト!」
笑いながら走ると本当に元気が戻ってくる。

あと少し!あと少し!と彼女に伝えた。
「ファイトーー」とバカみたいに叫ぶ。
大きな声で回りのランナーも巻き込んで、力の限り、ファイトと叫び、走った。

バカになるって気持ちいい。

そのまま、スピードにのったまま、ゴールのある保田小学校に着いた。
彼女は満面の笑みだった。
スピードにのったままゴールにたどり着いた。
とても気持ちがよかった。彼女と笑いながら握手をかわした。

名も知らぬ女神の笑顔。
二度と会うことはないだろうが、爽やかな気持ちだった。


■何かが未来で待っている

そして、俺は、力尽きた。
芝生の上で倒れ、空を見上げた。

おもしろかったな。
おもしろい一日。
力いっぱい、心と体を使って走る。
心も体も燃える。

今、このひと時にかける。
この一瞬にかける。

そうしてたら、面白いことがきっと待ってる。
何かが未来で待っている。(^^)

そう思って前に進む。

 記録 4時間13分33秒 203位/800人中

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